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大阪高等裁判所 昭和51年(ラ)105号 決定 1979年8月11日

抗告人 下村智代子 外二名

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人ら各自の負担とする。

理由

一  抗告人下村智代子、同田代清子の抗告の趣旨及び理由は別紙(一)記載のとおりであり、同鈴木信一の抗告の趣旨及び理由は別紙(二)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  抗告人下村智代子、同田代清子の抗告理由一について

原審における鑑定人○○○○作成の昭和五〇年一〇月一五日付鑑定評価書によると、別紙目録1土地の昭和五〇年六月一日現在の評価額は五四、六二七、〇〇〇円(賃貸部分四二五・〇九平方メートルを二二、七八五、〇〇〇円、更地部分二四三・〇七平方メートルを三一、八四二、〇〇〇円)と認められ、右鑑定評価額と原審認定価格とに所論のような矛盾は無い。

所論中の医療法人○○○に対する賃貸部分の価格の認定についても、記録によれば医療法人○○○は、被相続人及びその親族により設立された法人で現在は鈴木良明が理事長をしているとはいえ、独立した医療法人であり、右土地の一部を建物所有を目的として賃借しているものと認められ、この賃借権の効力を通常の建物所有を目的とする土地賃借権と別異のものと認めるべき資料も無いのであるから、所論の賃借人の性格、賃料額の点を考慮しても、右賃貸土地部分の評価につき、一般の場合に準じて更地価格の四割と評価することは不合理ということはできず、原審判の右賃貸部分の土地価格の認定は首肯しうるところである。所論はいずれも採用しえない。

2  同抗告理由の二について

右抗告理由に主張するように、別紙目録5記載の土地ないしはその購入代金を被相続人が相手方鈴木良明に生前贈与したと認めるべき資料はなく、かえつて原審記録中の右土地の登記簿謄本、鈴木良明作成の昭和五〇年九月二〇日付の書面、原裁判所昭和四七年(家)イ第二一九八号親族関係申立事件記録中の家庭裁判所調査官作成の調査報告書中の鈴木良明、林光子(共同相続人)の各陳述要旨の記載によると、右土地は鈴木良明が昭和二六年九月一二日、森口忠治から代金三〇、〇五〇円で買受けたものであり、右代金は相続人らの母和江が鈴木良明に贈与したものであることが認められる。抗告人らの右主張は採用することができない。

3  同抗告理由三及び抗告人鈴木信一の抗告理由四について

右理由の要旨は、原審判が別紙目録2記載の建物及びその敷地に関し、その価格の二割相当額を鈴木良明の居住利益と認め、右不動産の評価額からこれを減じて遺産分割を行つたのは不当である、というのである。

よつて検討するに、遺産分割において従前より遺産たる土地家屋に被相続人と共に居住しこれを使用していた共同相続人の一部の者が、相続開始後もその居住を継続すべき正当性を有するものと認め得る場合には、他の共同相続人は、相続によつて被相続人の地位を承継したという理由だけで右居住使用の利益を侵すことは許されないと解しうるところであり、したがつて、遺産分割にあたり当該不動産を評価するについては、あたかも賃借権等の権利の付着している場合に類似して、その純客観的評価額から右居住使用の利益相当分だけを控除して評価をすることは、合理性があるものというべきである。このことは、遺産分割の結果、現に居住使用している相続人が当該不動産を取得する場合においても同様であると解しうる。

記録によると、鈴木良明は、被相続人と前記建物に同居し、昭和二八年ころから医療法人○○○の経営にあたるとともに、被相続人の生計の維持に尽力していたが、昭和四〇年ころ結婚を機会に他に住宅を借りて別居するようになつたこと、しかしその際将来両親のうちいずれかが死亡した時には右の建物へ戻り残された親と同居すると約束していたこともあつて、母和江が死亡した後昭和四五年一月からは被相続人の老後をみるため右建物へ戻り、被相続人が死亡するまで同居し、その後も妻と共に右建物に居住し、引続き右建物敷地に隣接する土地上にある前記医療法人○○○を主宰して現在に至つていること、鈴木良明は右建物以外の住居を有しないが、同人を除くその余の相続人らはいずれも他に安定した住居を有しており、右建物及びその敷地に居住しこれを使用すべき格別の必要性のないことが認められ

る。

してみれば、右建物及びその敷地には鈴木良明が引続き居住しこれを使用すべき必要性が認められ、その地位を保護される利益が付帯しているものというべきであるから、遺産の評価に際し当然これを考慮しなければならない。そして前記法人の賃借部分について更地価格の六割と評価したこと、鈴木良明の前述のような右建物の使用状況、その必要性等を参酌すると、右居住利益の評価額は右建物の価格及びその敷地の更地価格の各二割に当たるものと評価し、これを控除した後の右建物及び敷地の評価額を前提として遺産分割を行うべきであるとした原審判の認定判断は是認できるところである。なお抗告人鈴木信一は、鈴木良明が相続開始後も右建物及びその敷地に無償で居住しており不当に利益を得ているのに、そのうえなお同人に居住利益を認めるのは同人に対し二重の利益を与えることとなり不当である旨主張するが、右居住利益控除の趣旨は前記のとおりであるから、鈴木良明に特別に利益を与えたというのは当らないし、同人には本件相続開始後も右建物及びその敷地上に居住を継続すべき正当性が認められ、その地位を保護される立場にあること前記のとおりであるから、同人が無償で居住使用していることをもつて不当な利益の取得とはいいがたいところである。結局抗告人らの右各主張はいずれも採用するに由ないものというべきである。

4  抗告人下村智代子、同田代清子の抗告理由四及び抗告人鈴木信一の抗告理由二について

右理由の要旨は、原審判が鈴木良明に相続財産に対する寄与分を三割と認め、これを同人に取得させたことを非難するものであるが、遺産分割に際し共同相続人のうち相続財産の維持または増加につき顕著な寄与貢献をした者については、法定相続分とは別にその寄与分を評価し、法定相続分と寄与分とを加えたものを当該相続人に取得させることができるものと解すべきところ、記録によれば、鈴木良明は、前記3のとおり昭和二八年ころから被相続人に代つてその家族の生計の維持、医療法人○○○の経営等にあたるようになり、その後も被相続人が死亡に至るまで、その面倒をみて来たほか、別紙目録2の建物の建築、維持、増築につき多額の資金を負担し(この具体的内容は原審判書八枚目裏一一行目から九枚目表八行目までに記載と同一であるから、これをここに引用する)、他の共同相続人らの協力を得られない間にあつて、被相続人の家業ともいうべき前記医療法人の維持、発展に尽力して現在に至つていることが認められ、右のような事実に鑑みれば、鈴木良明は、前記医療法人の経営に貢献したというに止まらず、被相続人の資産の増加、その維持保全に顕著な寄与をしていたものというべく、本件に現れた一切の事情を総合勘案すれば、鈴木良明の寄与分を三割とした原審判の判断は、是認することができるのである。抗告人らの前記主張は採用しえない。

5  抗告人下村智代子、同田代清子の抗告理由五について

原審が、所論の岡田健次郎についても調査をなしていることは、原審記録中の家庭裁判所調査官○○○作成の昭和五〇年一二月二二日付調査報告書により明らかであり、右報告書並びにその他一件記録によると、相続人林光子にとつては戦時統制下の厳しい時代(昭和一九年)のことでもあり、また同佐藤恵子にとつては戦災で焼失した被相続人方の病院や住宅が再建されて間もない終戦直後(昭和二三年)のことであつたため、いずれもその嫁入仕度は質素なものであり、抗告人らの主張するような高価なものではなかつたことが認められるから、右相続人らに特別受益を認めなかつた原審判の判断は相当であり、抗告人らの右主張は採用しがたいところである。

6  抗告人鈴木信一の抗告理由一、三について

原審が、専ら鈴木良明からの事情聴取によつて事実を認定したものでないことは、原審記録に徴して明らかであり、原審記録によれば、原審の認定判断は首肯できるところであり、原審判に所論のような不公平な判断ないし事実誤認の形跡は窺われない。

7  以上の次第で、抗告人らの各抗告理由はいずれも理由がなく、その他記録を検討するも原審判を不当とする理由は見当らない。

よつて原審判は正当であつて、本件各抗告はこれを棄却すべく、抗告費用は抗告人ら各自の負担とすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 坂詰幸次郎 豊永格)

抗告理由書<省略>

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